名古屋製鉄所 ショールーム
現場の声をかたちに。
クライアントの持つ資産を再生させた
ショールーム設計
日本製鉄 名古屋製鉄所に併設されたショールームのリニューアルに伴い、空間デザイン、展示内容のディレクションを博展が担当。鉄という素材の魅力、可能性とは何か。
それをターゲットである小学生を含めた一般の方々にどう伝えていくべきか。そのために、どんな体験をこのショールームで提供していくのか。クライアントとの対話を重ね、10年後も色褪せない常設展示の空間を創り出しました。本プロジェクトはどのように創られていったのか。
営業を担当した三澤と、プランニングを担当した福坂がお伝えします。
2004年新卒入社。予算、スケジュール、成果物クオリティの3点を中心に進行管理を担当。クライアントとプロジェクトメンバーを繋ぐコアとして、大勢が関わるプロジェクトをまとめ上げた。
2005年新卒入社。クライアント・プロジェクトメンバーとの対話を通じて課題を抽出し、解決へと導くプランニングを行う。クライアントの想いを具現化した体験づくりに貢献した。
空間デザインで掘り起こす企業の資産
愛知県東海市にある日本製鉄 名古屋製鉄所。この場所では、鉄という素材の歴史や可能性を伝えていくことを目的に、日々工場見学が開催されています。鉄鉱石を溶かし、鋼の原料となる銑鉄(せんてつ)を造る工程や、鋼の塊を加熱して、薄く延ばしていく工程など、鉄作りを間近で体験できるのが魅力です。
博展は、名古屋製鉄所に併設されたショールーム空間のリニューアルを担当しました。工場見学の体験をより豊かなものにするために、"Fe" -Flexible elements, Future elements-というコンセプトのもと、鉄そのものの歴史や、拡張性・リサイクル性といった素材の可能性を実物展示・模型展示・テジタルコンテンツを用いて表現しました。
博展メンバーがショールームを初めて訪れた際、印象的だったのが、来場者に展示の解説を行うアテンドスタッフの声。現場で試行錯誤していたスタッフの「声」に焦点を当てたかったと、プランニングを担当した福坂は振り返ります。
福坂「スタッフの方々のスキルと情熱は本当に凄くて、そこにあった展示物よりも鉄の魅力を伝えていました。その声を形にできたら、もっと多くの方にこの場所を訪れてもらえるはずだと思ったんです」
こうした想いのもと、クライアントや現場のスタッフに何度もヒアリングを行う中で、徐々に提案の方向性が定まっていきました。製鉄所内に設置されたショールームが担うべき役割は、工場や企業の取り組みを説明することではなく、重く、環境に悪いという鉄のイメージを払拭し、様々な角度から鉄の魅力を提示すること。関係者と対話を重ね、時間をかけてクリエイティブをつくりあげました。
子どもの笑い声が響くショールーム
名古屋製鉄所 ショールームの空間デザインにあたり、博展が大事にしたポイントは3点。
1つは、ショールームのモニュメントとなる展示什器を鉄でつくり、お客様の製品でもある鉄そのものに手で触れてもらうこと。鉄の持つ様々な価値、素材の表情をモニュメントや展示台でも表現していきました。
2つめは、子どもと大人、それぞれの目線で楽しめる情報設計を行ったこと。小学生を含めた一般の方々をターゲットにしたい、というクライアントの要望に沿って子どもの目線に合わせた表現を行いながらも、大人も楽しめるような奥行きのある情報設計を心掛けました。また、将来的に展示コンテンツが更新されることを考え、更新性の高い情報はデジタルにするなど、拡張性を持たせています。
そして3つめは、スタッフや来場者の間に会話が生まれる、楽しい空間であること。
空間全体のトーンはポップな印象に。会場内のサインやモニュメント・展示模型・キービジュアルに使われているアイコンも、一からデザインを行っています。すべて製鉄所や東海市に関係するものをモチーフにするなど、細部にもユーモアを忍び込ませました。
クライアントとの対話が生んだ
ショールーム
博展へは、プロジェクトの骨子が定まる前段階で声掛けがありました。三澤はプロジェクトがスタートする前段階からクライアントのもとに何度も足を運び、限られた予算の中で効果的なプランを数パターンにわたって提案。丁寧な説明を重ねたことで信頼を獲得し、制作期間や予算は拡大。条件を整えた上で正式にプロジェクトがスタートしていきました。
三澤「初回訪問からコミュニケーションを重ねていく中で、担当の皆様の「このショールームを良いものにしたい」という情熱を感じました。展示項目が多かったため、関係者も多く、プロジェクト進行も一筋縄ではいきませんでしたが、互いに意見を出し合いながら創り上げていく過程は楽しく、とても魅力的なプロジェクトでした」
クライアントが求めるものと社内のクリエイターの特性が合っているのかを考慮し、チームメイキングをする。営業はプロジェクトのチームづくりを担います。プランナーをチームに招き入れるにあたり、クライアントの目指すアウトプットに到達するためには、福坂の力がどうしても欲しかったと三澤は話します。
三澤「このようなプロジェクトを成功に導くためには、どのように施設来場者の体験ストーリーを描くかが非常に大切になります。福坂はクライアントの要望や課題を上手に引き出しながら、来場者に企業側の想いや情報を届ける道筋をつくるのがうまい。来場者が「自分ごと」として受け取れるストーリーを描いてくれます」
名古屋製鉄所ショールーム空間のプランニングを行う上で福坂が大事にしていたのは、企業の核となる部分を抽出すること。ブランドのロゴをデザインするような仕事だったといいます。
「このプロジェクトのように常設空間をつくっていくとなると、企業やブランドの本質、核となる部分を抽出し、磨きあげていくことが必要になります。時代が変わっても、変わらず求められ続ける鉄の可能性とはなにかを突き詰め、ストーリーに落とし込んでいきました」
プロジェクトを振り返り、印象深かったことは何かと質問すると、12ヶ月間に渡ってクライアントとの対話を続けた時間だと2人は口を揃えます。クライアントと同じ目線に立ってプロジェクトに臨んだことが良いアウトプットに繋がりました。
福坂「この仕事を思い出す時、ショールームをどうしていきたいのかを情熱を持って私たちに話してくれた担当者の顔が浮かんできます。博展だけでなく、クライアントと一緒に楽しんで創り上げたプロジェクトでした」
三澤「ショールーム完成後、クライアントのプロジェクト担当者から『来場される方達がとても楽しそうに利用してくれているんですよ!』という嬉しそうな声をいただきました。展示空間で子どもがはしゃいでいるとも。来場者が楽しんでくれていることも勿論ですが、この場で働く方の笑顔が見られたことが嬉しいですね。この仕事に対する何よりの評価だと思っています」
スタッフクレジット
- 営業
- 三澤 幸由河田 友輔
- プランナー
- 福坂 済
- デザイナー
- 原 慎太郎
- グラフィックディレクター
- 岡本 洋行
- 制作ディレクター
- 小野寺 悠太